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トラックドライバーが足上げする理由とは?過酷な実情と健康への影響

トラックドライバーが足上げする理由とは?過酷な実情と健康への影響

サービスエリアや道路脇で、ハンドルに足を上げて休んでいるトラック運転手の姿を見かけたことはありませんか。一見すると「行儀が悪いのでは?」と感じるかもしれない、あの独特な休憩スタイル。

実は、ドライバーたちがあのような体勢を取るのには、一般の人が想像する以上に切実で合理的な理由が隠されています。

トラックドライバーがハンドルの上に足をのせるのは、単なる癖や好みではありません。トラックで足を上げて寝る行為や、短い時間で足を上げて仮眠を取らざるを得ない背景には、荷主の都合に振り回される「延着トラック」や「早着トラック」といった問題、そして厳しい労働環境が深く関係しています。

また、健康面においても、車で足を上げて休む姿勢は重要な意味を持ちます。「あいつ、足を乗せるやつか」などと思われがちなあの体勢は、実は長時間運転による健康リスク、たとえば椎間板ヘルニアの予防にもつながっているのです。

この記事では、なぜ多くのドライバーが足を上げるという選択をするのか、その裏にある事情を徹底的に解説します。

この記事を読むことで、以下の点が明確になります。

  • トラック運転手がハンドルに足を上げる本当の理由
  • 足上げ姿勢がもたらす医学的なメリットと健康効果
  • ドライバーを取り巻く過酷な労働環境の実態
  • 誤解されがちな行動の裏にあるやむを得ない事情
目次

トラックドライバーの足上げ姿勢に見る深刻な背景

トラックドライバーの足上げ姿勢に見る深刻な背景
イメージ(© fujiki-bin.com ふじき便)

ここでは、トラックドライバーがハンドルに足を上げるという行動の裏にある、労働環境に起因する深刻な背景について解説します。

  • トラックドライバーがハンドルの上に足をのせるのはなぜ?
  • ドライバーが足を上げるのは寝過ごしを防ぐため
  • 延着トラックだけでなくトラック早着もNGという事情
  • あえてトラックで足を上げて寝ることを選ぶ理由
  • なぜトラックのハンドルに足を乗せるのか
  • 短い時間で足を上げて仮眠を取らざるを得ない現実

トラックドライバーがハンドルの上に足をのせるのはなぜ?

路上で休憩中のトラックドライバーが、ハンドルに足を乗せて休んでいる光景を目にしたことがある方も多いでしょう。この行動には、実は複数のやむを得ない理由が絡み合っています。

多くの人はその姿を見て、「楽な姿勢なのだろう」あるいは「マナーが悪い」と感じるかもしれません。しかし、ドライバーにとってこの姿勢は、単なる休憩ではなく、過酷な労働環境を乗り切るための計算された自己防衛策であり、一種の生存戦略でもあるのです。

その理由は、大きく分けて「寝過ごし防止」「疲労回復」「健康維持」の3つに集約されます。これらはすべて、不規則で短い休憩時間、駐車スペースの不足、そして長時間運転がもたらす身体への負担といった、ドライバーが日常的に直面する問題に深く関わっています。

後記に、これらの理由を一つひとつ具体的に掘り下げていきます。

ドライバーが足を上げるのは「寝過ごし」を防ぐため

トラックドライバーがハンドルに足を上げる大きな理由の一つが、「寝過ごし」を防止するためです。

長距離を走る大型トラックの多くには、運転席後部に「ベッドスペース」と呼ばれる仮眠用の寝台が備わっています。大柄な男性でも横になれる十分な空間があり、本来であればそこで体を休めるのが最も快適なはずです。

しかし、ドライバーが取れる休憩は、数時間取れることもあれば、次の荷積みや荷降ろしまでのわずか30分程度ということも少なくありません。心身ともに疲れ切った状態で快適なベッドに身を横たえてしまうと、短いはずの仮眠が深い眠りへと変わり、指定された時間通りに起きられない「寝過ごし」のリスクが高まります。

その点、運転席でハンドルに足を上げた不自然な体勢であれば、深く眠りすぎることはありません。むしろ、数十分もすれば足がしびれたり腰が痛くなったりするため、その不快感が“目覚まし”として機能するのです。つまり、ドライバーが足を上げるのは、時間通りに業務を再開するための意図的な選択であると言えるのです。

延着トラックだけでなくトラック早着もNGという事情

延着トラックだけでなくトラック早着もNGという事情
イメージ(© fujiki-bin.com ふじき便)

トラック運送の世界では、「延着」、つまり指定時間に遅れることが許されないのは当然ですが、実はその逆である「早着」、早く着きすぎることもご法度とされる場合がほとんどです。この独特な業界慣習が、結果的に路上での待機時間を生み出し、足上げ休憩の一因となっています。

荷主や納品先の多くは、1日の作業スケジュールを円滑に進めるため、トラックの搬入時間を細かく指定しています。早く到着しても、前のトラックの作業が終わっていなかったり、受け入れ準備が整っていなかったりすれば、構内に入れてもらえません。

さらに、荷主によっては「近隣住民への配慮」などを理由に、荷下ろし(又は荷積み)する場所の敷地周辺での待機すら禁止することがあります。早く着いても中に入れず、近くで待つことも許されない。こうしてドライバーは、目的地から少し離れたサービスエリアや路肩などで、指定された時間まで待機、つまり「時間調整」をせざるを得なくなるのです。

この時間調整に加えて、後述する「改善基準告示」によって義務づけられた休憩時間が重なることで、中途半端な待ち時間が発生してしまいます。そのため、ドライバーは運転席で仮眠を取る必要があり、結果的に足を上げて休む姿勢を選ぶことがあるのです。

あえてトラックで足を上げて寝ることを選ぶ理由

前述の通り、トラックには快適なベッドスペースが備わっているにもかかわらず、多くのドライバーは運転席で足を上げて仮眠を取ることを選びます。その背景には、寝過ごし防止に加え、日本の道路インフラが抱える「駐車スペースの不足」という深刻な問題が影響しています。

長距離ドライバーにとって、高速道路のサービスエリア(SA)やパーキングエリア(PA)は貴重な休憩場所です。しかし、夜間や早朝には大型トラックで満車状態になることが日常茶飯事で、駐車スペースを見つけること自体が困難を極めます。

一般道においては、状況はさらに深刻です。大型トラックが安全に、かつ周囲の迷惑にならずに駐停車できる場所はほとんど存在しません。コンビニの中には大型車向けの駐車スペースを設けている店舗もありますが、その数は限られており、しかも乗用車に占拠されているケースも少なくないのが現状です。

このように、安心して体を横にして休める場所が確保できないため、多くのドライバーにとって運転席が唯一のプライベートな休憩空間となります。そして、その限られたスペースで少しでも体を休めるために、ハンドルに足を乗せるという姿勢が、最も現実的で合理的な選択肢となるのです。

なぜトラックのハンドルに足を乗せるのか

なぜトラックのハンドルに足を乗せるのか
イメージ(© fujiki-bin.com ふじき便)

ドライバーが休憩中に足を乗せる場所として、なぜ特に「ハンドル」が選ばれるのでしょうか。それは、足を効率よく心臓より高い位置に保つために、ハンドルが最も適した支えになるからです。

長時間の運転では、重力の影響によって血液や体液が足や下半身に溜まり、「むくみ」やだるさを引き起こします。これを軽減し、血流を促すためには、足を心臓より高く上げることが非常に効果的とされています。

その際、ダッシュボードの上に直接足を置こうとすると、高さが不十分であったり、滑りやすく不安定だったりします。一方で、ハンドルは頑丈で、円形の形状が足を乗せるのに適しており、安定して足を高い位置に保つことが可能です。

つまり、トラックのハンドルはドライバーにとって、即席の「フットレスト」や「足枕」のような存在なのです。この姿勢を取ることで、限られた休憩時間の中でも効率的に足の疲労を軽減し、次の運転に備えることができるのです。

短い時間で足を上げて仮眠を取らざるを得ない現実

これまでの要因をまとめると、トラックドライバーが短時間で足を上げて仮眠を取るのは、本人の意思や習慣によるものというよりも、彼らを取り巻く過酷な労働環境がそうさせている――そんな厳しい現実が浮かび上がってきます。

労働環境が生み出す負のサイクル

荷主の都合に合わせたタイトな配送スケジュール、渋滞など予測困難な交通事情、そして「延着も早着も許されない」という時間的プレッシャー。こうした条件の中で働くドライバーには、さらに「改善基準告示」による労働時間の規制も課されています。たとえば、「4時間連続で運転したら30分の休憩を取る」ことが義務づけられています。

この規制は本来、ドライバーの健康を守るためのものですが、現実には「本当は先を急ぎたいのに、決まったタイミングで休まなければならない」「疲れていても、停める場所がなくて休めない」といったジレンマを引き起こしています。

こうした複雑な要因が絡み合うことで、荷待ちの長時間や、目的地手前での中途半端な待機など、自由に使えない“余白の時間”が発生します。十分な睡眠を取る余裕もないまま疲労と睡魔が蓄積し、限界に達したドライバーは、せめてもの休息手段として、運転席で足を上げたまま仮眠を取るという選択をせざるを得なくなるのです。

トラックドライバーによる足上げ姿勢の医学的な理由

トラックドライバーによる足上げ姿勢の医学的な理由
イメージ(© fujiki-bin.com ふじき便)

この姿勢は、単に労働環境から生まれた苦肉の策というだけではありません。医学的な観点からも、ドライバーの健康を守るための合理的な効果があることが分かっています。

  • 足を上げて休むとどんな効果があるの?
  • 車で足を乗せるやつはエコノミー症候群の予防策
  • 休憩中に車で足を上げることの健康上のメリット
  • トラックドライバーはヘルニアになりやすい?血栓リスク
  • 総括:トラックドライバーの足上げは合理的な休憩法

足を上げて休むとどんな効果があるの?

トラックドライバーがハンドルに足を上げて休む姿勢には、主に「むくみの解消」と「血流の改善」という、2つの大きな医学的効果が期待できます。

長時間、同じ姿勢で座り続ける運転業務では、重力によって血液やリンパ液などの体液が足へと溜まりやすくなります。これが、足がパンパンに張る「むくみ(浮腫)」の主な原因です。むくみは不快なだけでなく、疲労感やだるさを増幅させます。

そこで効果を発揮するのが、足を心臓より高い位置に上げるという姿勢です。この体勢をとることで、下半身に滞っていた血液や体液が重力によって心臓へ戻りやすくなり、血液循環が促進されます。その結果、ふくらはぎなどの筋肉にかかっていた余分な圧力が軽減され、むくみが和らぎます。

加えて、全身の血流が改善されることで、筋肉に蓄積した疲労物質の排出も促され、疲労回復にもつながります。つまりこの足上げ姿勢は、ドライバーが限られた時間と空間の中で行う、簡易的なセルフケアやマッサージのような役割を果たしているのです。

車で足を乗せるやつはエコノミー症候群の予防策

トラックドライバーが車内で足を上げる姿勢は、命に関わることもある「エコノミークラス症候群」の有効な予防策の一つです。

エコノミークラス症候群の正式名称は「急性肺血栓塞栓症」と言い、長時間同じ姿勢でいることで足の静脈に血の塊(血栓)ができ、その血栓が血流に乗って肺の血管に詰まってしまう病気です。呼吸困難や胸の痛みを引き起こし、最悪の場合は死に至ることもあります。

トラックドライバーは、この病気を引き起こすリスク要因を複数抱えています。

エコノミークラス症候群のリスク要因トラックドライバーとの関連
長時間不動何時間も同じ姿勢で運転を続ける
水分不足トイレの回数を減らすため、水分摂取を控える傾向がある
下肢の圧迫運転席に座り続けることで、太ももの裏などが圧迫される
加齢・肥満など個人の健康状態も影響する

こうしたリスクに対し、足を高く上げて血流を促すことは、血栓の形成を防ぐ上で非常に効果的な対策となります。一部の専門家も、ドライバーに対して休憩中の足上げを推奨しています。

見た目の問題からこの姿勢を禁止する運送会社も存在するようですが、それはドライバーの健康リスクを高めかねない、という側面も持ち合わせています。

休憩中に車で足を上げることの健康上のメリット

休憩中に車で足を上げることの健康上のメリット
イメージ(© fujiki-bin.com ふじき便)

休憩中に車内で足を上げることには、これまで述べてきた「むくみ解消」や「エコノミークラス症候群の予防」以外にも、いくつかの健康上のメリットが考えられます。

一つは、純粋なリフレッシュ効果です。運転中は常に足がアクセルやブレーキ、クラッチペダルの上にあり、緊張状態が続きます。休憩中に足を高く上げることで、一時的にその緊張から解放され、心身ともにリラックスする効果が期待できます。

また、全身の血行が促進されることで、脳への酸素供給がスムーズになり、短い休憩時間でも頭がすっきりとし、その後の運転への集中力を高める助けになる可能性もあります。

ただし、注意点も存在します。この姿勢は腰に負担がかかることもあるため、長時間の足上げは逆効果になる場合があります。あくまで短い休憩時間における応急処置的な健康法であると理解することが大切です。

ドライバーたちも、本音を言えば足を上げずに、後ろのベッドでゆっくりと体を伸ばして休みたいと考えているのです。

トラックドライバーはヘルニアになりやすい?血栓リスク

「トラックドライバーはヘルニアになりやすい?」という疑問を持つ方もいるかもしれません。実際に、長時間の運転は腰に大きな負担をかけ、椎間板ヘルニアなどの腰痛疾患のリスクを高める要因となり得ます。

腰への負担とヘルニアのリスク

運転中は、常に同じ姿勢で座り続けることに加え、路面からの振動が継続的に体に伝わります。この振動と持続的な圧力が、背骨の間でクッションの役割を果たす椎間板にダメージを与え、ヘルニアを引き起こすことがあるのです。

ハンドルに足を上げる姿勢が直接的にヘルニアを治療するわけではありません。しかし、休憩中に血流を改善することは、筋肉の硬直を和らげ、腰への負担を少しでも軽減することに間接的に貢献する可能性があります。

血栓リスクとの複合的な関係

前述の通り、長時間座位はエコノミークラス症候群、つまり血栓のリスクを著しく高めます。このように、トラックドライバーは、ヘルニアのような筋骨格系の疾患と、血栓症のような循環器系の疾患という、複合的な健康リスクに常に晒されていると言えます。

これらのリスクを少しでも軽減するために、休憩中の足上げのようなセルフケアが、ドライバー自身の健康を守る上で重要な意味を持っているのです。

総括:トラックドライバーの足上げは合理的な休憩法

総括:トラックドライバーの足上げは合理的な休憩法
イメージ(© fujiki-bin.com ふじき便)

この記事で解説した内容をまとめます。

トラックドライバーがハンドルに足を上げて休む行動は、多くの人にとって奇異に映るかもしれませんが、その裏には極めて合理的で切実な理由が存在します。

  • ハンドルへの足上げは一見すると行儀が悪く見える
  • しかし背景にはドライバーのやむを得ない事情がある
  • 短い休憩時間での寝過ごしを防ぐための重要な工夫
  • 足のしびれや痛みが皮肉にも目覚まし代わりとなる
  • 長時間の運転で生じる深刻な足のむくみを和らげる効果
  • 足を心臓より高い位置に保ち全身の血流を改善する目的
  • エコノミークラス症候群という深刻な病気の予防策として有効
  • 下肢の血流を促し血栓ができるリスクを低減させる
  • 運送業界では「延着」だけでなく「早着」も許されない
  • 荷主都合により路上での長時間待機(時間調整)が発生する
  • 法律(改善基準告示)で4時間ごとに30分の休憩が義務付けられている
  • 大型トラックが安心して駐停車できるスペースが圧倒的に不足
  • 結果的に運転席が唯一の休憩スペースとなることが多い
  • 見た目の問題などを理由に会社から禁止される場合もある
  • ドライバーが自らの健康と安全を守るために編み出した知恵である
  • この行動の裏にある過酷な労働環境への理解が求められる
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ブログ管理人

こんにちは、ふじきです。
「現場ドライバーが語る、物流のいま。」というテーマでざっくばらんに記事にしていきます。

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